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2021.3.22. Mon
コロナウイルスと社会暴力の増大
―― パンデミックで引き裂かれた社会
国や市民にとって、平和とはたんに国家間戦争が起きていない状態ではない。人命、コミュニティ、制度や体制の安定を脅かす問題がない状態のことだ。実際、経済の不安定化、民主主義の後退、制度や体制への不信、特定の人種のスケープゴート化など、これらの全ては政治的暴力の可能性を高める。不幸にもCOVID19は、これらのトレンドを刺激している。マイノリティ集団をスケープゴートや攻撃の対象にし、特定の宗教を差別する行動、アジア系やユダヤ系の人々に対する暴力行為やスケープゴート化、陰謀論の流布が世界各国で広がっている。(ブラウン、ハールバート、スターク)
白人が主流派だったアメリカという国の顔が変わりつつある。国家アイデンティティをめぐる厄介な対立を、もはや政治制度によって封じ込められなくなっている。実際、長い間、人種・民族問題を抑え込んできた政党政治が、逆に民族問題を煽りたててしまっている。しかも、国家アイデンティティをめぐる対立にこの国の妄想の歴史が重なり合ったために、アメリカはおかしくなってしまった。アメリカのアイデンティティが変わり続けている以上、政治が近い将来に冷静さを取り戻せるとは考えにくい。(モローン)
白人警察官がアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドを(首を足で押さえつけて)残酷に殺害した事件は、大規模な抗議行動を誘発した。しかし、多くのアメリカの都市で起きた暴動に対するトランプの反応は、彼の(でたらめな)基準からみても衝撃的だ。デモ参加者を悪者とみなして催涙ガスの使用を促し、デモ対策として国内で軍を配備するための1807年の反乱法を発動することさえ示唆した。(アメリカの制度に対する市民の)信頼を取り戻すには、次の政権は風土的病的な広がりをみせる人種差別と格差に対処していく必要がある。(アセモグル)
コロナウイルスと社会暴力の増大
―― パンデミックで引き裂かれた社会
2020年7月号 レイチェル・ブラウン オーバーゼロ エグゼクティブディレクター ヘザー・ハールバート 新アメリカ政治改革プログラム ディレクター アレクサンドラ・スターク 新アメリカ政治改革プログラム シニアリサーチャー
国や市民にとって、平和とはたんに国家間戦争が起きていない状態ではない。人命、コミュニティ、制度や体制の安定を脅かす問題がない状態のことだ。実際、経済の不安定化、民主主義の後退、制度や体制への不信、特定の人種のスケープゴート化など、これらの全ては政治的暴力の可能性を高める。不幸にもCOVID19は、これらのトレンドを刺激している。アメリカでは、長年の人種間の不平等や社会的分断が引き起こす問題をパンデミックが増幅させ、警察官が黒人男性を死亡させた映像が大規模な抗議活動に火をつけた。アメリカだけではない。マイノリティ集団をスケープゴートや攻撃の対象にし、特定の宗教を差別する行動、アジア系やユダヤ系の人々に対する暴力行為やスケープゴート化、陰謀論の流布が世界各国で広がっている。
誰が本当のアメリカ人なのか
―― 移民と人種差別と政治的妄想
2018年5月号 ジェームズ・A・モローン ブラウン大学教授(公共政策・政治学・都市研究)
白人が主流派だったアメリカという国の顔が変わりつつある。オバマほどこの変化を象徴する存在はないし、トランプほど、こうした変化に対する反動を象徴する存在もない。1日平均五つの嘘をつくトランプの登場は、アメリカ政治につきものの妄想だけでなく、この国の自画像が揺れ動いていることを示している。国家アイデンティティをめぐる厄介な対立を、もはや政治制度によって封じ込められなくなっている。実際、長い間、人種・民族問題を抑え込んできた政党政治が、逆に民族問題を煽りたててしまっている。しかも、国家アイデンティティをめぐる対立にこの国の妄想の歴史が重なり合ったために、アメリカはおかしくなってしまった。アメリカのアイデンティティが変わり続けている以上、政治が近い将来に冷静さを取り戻せるとは考えにくい。
アメリカ社会の分裂と解体
―― 唐突な国家破綻を回避するには
2020年7月号 ダロン・アセモグル マサチューセッツ工科大学 教授(政治経済学)
白人警察官がアフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドを(首を足で押さえつけて)残酷に殺害した事件は、大規模な抗議行動を誘発した。かつて白人至上主義者を「とてもよい人々=very fine people」と呼んだ指導者が、この危機に米大統領として建設的な発言ができるはずはなかった。しかし、多くのアメリカの都市で起きた暴動に対するトランプの反応は、彼の(でたらめな)基準からみても衝撃的だ。デモ参加者を悪者とみなして催涙ガスの使用を促し、デモ対策として国内で軍を配備するための1807年の反乱法を発動することさえ示唆した。トランプが選挙に敗れ、素直にホワイトハウスを去ったとしても、新政権が、トランプをかつてホワイトハウスに送り込んだアメリカ社会の構造的問題に取り組まない限り、うまく修正できないダメージに直面する。(アメリカの制度に対する市民の)信頼を取り戻すには、次の政権は風土的病的な広がりをみせる人種差別と格差に対処していく必要がある。